2011.06.07
Die Falscher 邦題:ヒトラーの贋札
ナチスドイツによる史上最大規模の通貨偽造事件となった「ベルンハルト作戦」を、偽造にかかわったユダヤ人技術者の視点から描いた戦争ドラマ。ドイツ&オーストリア合作。アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。574作目の映画投稿です。
第2次世界大戦直後のモンテカルロ。札束が詰め込まれたアタッシュケースを提げて高級ホテルにチェックインしたのは、ユダヤ人のサリー(カール・マルコヴィクス)でした。
時は遡って1939年。サリーはパスポートを偽造した罪で、犯罪捜査局の捜査官ヘルツォーク(デーヴィト・シュトリーゾフ)に捕らえられます。が、直後に第2次世界大戦が始まり、サリーはオーストリアにあるマウトハウゼン強制収容所に他のユダヤ人たちと共に送り込まれます。
悲惨な収容所生活から逃れるため、彼は持ち前の絵の才能をナチスの兵士に披露し、お抱えの画家となります。家畜以下の生活がほんの少しましになった矢先、今度はベルリン郊外にあるザクセンハウゼン強制収容所に送られることになります。
そこにはかつて彼を捕らえたヘルツォークが親衛隊少佐となって、ユダヤ人の囚人技術者を集めて偽ポンド紙幣を大量に造幣させる「ベルンンハルト作戦」の指揮を執っていました。
贋札工場は一般の収容所から隔離され、死と隣りあわせではない環境の中、サリーはアウシュヴィッツから送られてきた印刷工のブルガー(アウグスト・ディール)やコーリャ(セバスチャン・アーツェンドウスキ)らと共に、贋札作りに励みます。
本作は、主人公と共に贋札作りに加わったブルガー(実在)の証言を元に製作されたもので、作戦自体も実際に行われ、贋札そのものの影響と言うよりはその噂が広まったために、ポンドは信用をなくしてイギリス経済は終戦後しばらく回復できませんでした。
で、史実を映画化しただけではもちろんアカデミー賞はもらえないわけで、本作は「生きる」本能に従うサリーと、命を賭しても「大義」のためにサボタージュするブルガーの対比を描き、私たちに選択を迫ってきます。
全部お話しするとネタばれになってしまうので控えますが、どす黒い暗黒の収容所生活が終わるエンディングでは、ほっとするシーンが用意されていて、なかなか気の利いた結末が待っています。
そういう部分に着目すると、戦争映画というよりは社会派ドラマかもしれません。原題は「偽造者」という意味。
ジェイソン・ステイサム似の主人公デーヴィト・シュトリーゾフ、こういう作品ですからそう表現力を求められるものではありませんが、地味ではありますがなかなかの名演です。
「ユダヤ人収容所もの」というのは「シンドラーのリスト」をはじめ、さまざまな作品があり、どれもその凄惨さから怒りや憤りをスポイルして「人間賛歌」にするかと言うのが大変なのですが、本作は犯罪者による戦争と言う大義による犯罪という逆説的なプロットの中で、人が生きることの意味を問いかける、渋い作品です。
出演:カール・マルコヴィクス,アウグスト・ディール,デヴィッド・シュトリーゾフ,マルティン・ブラムバッハ,アウグスト・ツィルナー,ファイト・シュテュプナー
監督:ステファン・ルツォヴィツキー 2006年
BOSS的には・・・★★★☆☆
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