2012.09.09

Movies

Chariots of Fire 邦題:炎のランナー

1924年の第8回パリ・オリンピックに出場したイギリス青年を通して、複雑な背景を持つ同時代のイギリスを描いた実話に基づく社会派スポーツ映画。イギリス映画。アカデミー賞作品賞受賞作品。703本目の映画投稿です。

1919年イギリス。ケンブリッジ大学に入学したハロルド・エイブラハムズ(ベン・クロス)は、自分がユダヤ人であることを常に意識していました。彼はアングロ・サクソンとイギリス国教会による見えない差別に立ち向かうため、陸上競技に打ち込んでいました。

Chariots_of_Fire.jpg同じ頃、スコットランド国教会の宣教師の家庭に生まれ、自らも父の後を継ぐつもりだったエリック・リデル(イアン・チャールソン)も、その俊足を買われていました。

一方の大学では、ハロルド以外にも級友で障害物のアンドリュー(ナイジェル・ヘイヴァース)、中距離のオーブリー(ニコラス・ファレル)とヘンリー(ダニエル・ジェロール)らがパリ・オリンピックに向けて猛練習を積んでいました。

オリンピックを翌年に控えた国内の競技会でエリックに敗れたハロルドは、イタリア人プロコーチ、サム・ムサビーニ(イアン・ホルム)の指導を受けることにしますが、二人の学寮長(ジョン・ギールグッド、リンゼイ・アンダーソン)に、アマチュア精神にもとると批難されます。が、勝つことでしかイギリス人として認められない立場を訴えます。

そしていよいよ、オリンピック出場が決まったケンブリッジ4人組とエリックは、一路パリに向け出航します。

今年開催された第30回ロンドン・オリンピック。開会式でMr.ビーンがパロっていたのが本作です。あの印象的な海辺のランニングとあの主題歌で物語は始まります。

日本では関東大震災のあった翌年の1924年の第8回パリ・オリンピックが舞台の物語。日本からも選手19名が参加しました。

で、物語はオリンピックで金メダルを取るために、血のにじむような努力を重ねる若者を描くのではなく、その時代のイギリスと言う複雑なお国柄を描いたところに本作の「作品賞」たる意味があります。

主人公の一人は、イギリスで金融業で財を成した父を持つユダヤ人と、イギリス国教会とはまた異なるスコットランド国教会の敬虔な宣教師。

そして権威に寄りかかり伝統を優先する権威主義排他的なイギリスを体現する大学とのかかわりや、連合国として第一次世界大戦を戦いながらも帝国主義の覇権争いを続けるフランスやアメリカとの競争関係。ラテン系のイタリアに対する偏見。

それらの複雑な係わり合いが、登場人物たちの日常の中に織り込まれ、当たり前のことのように展開されてゆくため、背景事情に疎い私たち日本人から見れば、ただのスポーツ作品でしかなくて、どの辺がアカデミーなのかと訝ってしまいます。

そういう複雑な事情が少しでもお分かりの方には、しがらみの中で自らの夢をかなえてゆく若者たちへの賞賛と、なんだかんだといっても歴史と伝統あるイギリスの尊厳が埋め込まれた本作に見入ることでしょう。

こうして見ると、人種の坩堝であるアメリカよりも、イギリスのほうがもっと複雑で解きがたいジグソーパズルであることがよくわかります。

イギリス好きの方に。単なるスポーツ好きの方にはちょっと訴えるものが弱いかも。

出演:ベン・クロス,イアン・チャールソン,ナイジェル・ヘイヴァース,ニコラス・ファレル,ダニエル・ジェロール,シェリル・キャンベル,アリス・クリージ,イアン・ホルム

監督:ヒュー・ハドソン 1981年

音楽:ヴァンゲリス

BOSS的には・・・★★★☆☆ もっとムービー・アーカイブスはこちら >>> 「ムービー・インデックス」

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